「リンパ」という言葉を耳にすることは多いと思います。
リンパマッサージというのもよく聞きます。
でも改めて「リンパって何ぞや?」と考えるとよくわからない方が大半なのではないかと思います。
全身を循環する動脈血の血漿水溶液の一部は、毛細血管壁を通って組織中に漏れます。
これを間質液といったり組織液といったりします。
細胞はこの液体を介して栄養を与えられたり、代謝産物を取り込んだりします。
その後、この液体は毛細血管壁から静脈へ戻りますが、一部は(約10%)毛細リンパ管に入り、「リンパ」として回収されます。
毛細リンパ管の透過性は毛細血管より高いため、たんぱく質や脂質のような分子量が大きく毛細血管壁を通りにくいものもリンパ管に入ってきます。
体内に侵入した異物の大部分もリンパ管に取り込まれてきます。
また、リンパ管による回収能力を超えて組織液が貯留する状態を水腫といいます。
「変形性膝関節症」といって膝が痛くなるものがありますが、炎症が強いと膝関節が腫れます。このような状態も水腫といいます。
リンパ管は一般に静脈に伴って走っています。先端が閉じられた毛細リンパ管に始まり、合流してリンパ管、集合リンパ管となり、さらに合流を繰り返して最後はリンパ本幹となって静脈に合流します。
リンパ本幹は左右に1本ずつ、胸管と右リンパ本幹があります。リンパ管系では心臓のような駆動装置がないので、骨格筋(いわゆる運動をする時に働く筋肉)の収縮や隣接する動脈の拍動等によってマッサージをされるように圧迫され還流が促進されます。
心臓という駆動装置から送り出された血液は血管を通って全身を循環しますが、リンパには駆動装置が無く、また循環ではなく末梢からの還流となります。
胸の全面には人体で最大の胸管というリンパ本幹が上行しています。
全身のリンパ管のうち、左右の下半身と左の上半身のリンパ管は胸管に合流し、最終的に左の内頚静脈と鎖骨下静脈の合流部(静脈角)に注ぎます。
一方、右リンパ本幹は右上半身のリンパのみを集めて右静脈角に合流します。
このことからざっくり言うと全身の3/4の「リンパ」は胸管に集まり左の鎖骨の下で静脈に注ぐということになるでしょうか。
リンパマッサージもこういうリンパ管の走行を頭に入れてやるのが一つのポイントになるかと思います。
リンパの流れを促進させるマッサージでは鎖骨の下を揉みほぐしたりしますが、これはこのようなリンパ管の走りによるものです。
リンパ管は途中にリンパ節という濾過装置を経過します。
リンパ節は卵型またはそら豆型で1~25mmくらいの大きさです。腫れると割りと容易に触れることができます。
細菌や異物が組織液からリンパ管内に流入すると、リンパ節がそれらを捕獲し破壊しようとします。
リンパ節にはリンパ小節とリンパ洞があります。
リンパ小節ではリンパ球の増生が行なわれ、抗体を血液中に送ります。
リンパ洞は細菌や異物を細胞の食作用で処理し抗体の産生を行ないます。
この際、防衛力が十分でないと、発赤と腫脹が起き、リンパ節炎となります。
扁桃腺が腫れるのはこういう状態の時です。
癌細胞もリンパの中に流れ込みますがリンパ節でせきとめられ滞留すると、増殖をつづけ、リンパ節そのものが癌組織となります。
ここから癌の転移が発生します。骨盤の内部深層には多くのリンパ節があります。
これらがリンパ管により相互に連絡しているので、骨盤内の悪性腫瘍はリンパの走行によって拡がり、転移を生じやすいです。
子宮がんにおける手術の成否は、転移したリンパ節をいかに完全に除去できるかが大切なようです。
おそらく多くの皆さんが「リンパ」と呼んでいる部位はこのリンパ節のことを言っているのかなと思います。
リンパを押されると痛いとか、リンパをマッサージすると効くとか、
熱中症でリンパを冷やすと言いますがこれもリンパ節のことを言っていると思います。
鼡径リンパ節(足の付け根の前面)や腋窩リンパ節(脇の下)などですね。
乳がんの転移も腋窩リンパ節に起こるので、手術の際には腋窩リンパ節が広く腋窩内容とともに除去されるので、腕に浮腫が生じやすくなります。
以上を要約するならば、
- 体内の組織中に存在する過剰の組織液を吸収する。
- 体外から組織液に侵入した異物、細菌を取り除く。
- 過剰のたんぱく質を取り込み血液に戻すことで浸透圧を調節する。
といったところでしょうか。
リンパの流量は血液に比べれば非常にわずかですが、余分なたんぱくや水分を血中に戻すことができ、一方で感染を防ぐことにも役立っており、生体の恒常性、すなわち生きていく上で不可欠な役割を果たしています。